先日、経営者仲間とモーニングを食べながら、こんな話になりました。
「飲食の現場をやってきた人で、本格的な経営コンサルタントになる人って、あんまりいないよね」
言われてみれば、たしかにあまり見かけません。
何十年も店を回してきた人、赤字店を立て直した人、繁盛店を作った人。腕はある。実績もある。それなのに、その経験を売り物にしている人は少ない。
なぜだろう、という話で朝食が終わりました。
そのとき出てきた理由が、だいたいこの3つです。
- 現場が忙しくて、経営理論を体系的に学ぶ余裕がない
- 「美味しい料理と活気で客を呼ぶ」という感覚的な成功体験が多く、理論や数字にしにくい
- 1店舗成功しても、「他店でも通用する」という再現性を証明しづらい
どれも、なるほどと思います。
ただ、朝食のあと歩きながら、少し引っかかっていました。
これ、飲食だけの話じゃない
引っかかった理由は、同じ話を何度も聞いてきたからです。
整体の先生。腕はいいのに、施術しか売れない。
20年やってきた美容師さん。独立はしたけれど、後進を育てる仕事にはならない。
経理を任されてきた方。数字は誰より見てきたのに、それを商品にできない。
みなさん共通して、こうおっしゃいます。
「自分がやってきたことなんて、誰でもできることですから」
飲食の話をしているつもりが、実は現場の腕を持っている人すべての話でした。
だとすると、原因は業界の特殊事情ではないことになります。もっと構造的な何かがあるはずです。
「言語化できない」の正体
さきほどの3つの理由のうち、一番よく言われるのが「言語化の難しさ」です。
感覚でやってきたから、言葉にできない。だからマニュアルにも、商品にもならない。
でも、私はここに少し違う見方をしています。
言語化できないのではなくて、当たり前すぎて気づいていないだけ、ということが本当に多いんです。
自分の強みというのは、自分では見えません。
毎日やっていることは、呼吸と同じで意識に上がってこない。
「そんなの誰でもやってる」と本気で思っている。
だから、自分で内省しても出てこないんですね。
出す方法はひとつしかなくて、人に聞くことです。
お客様に「うちを選んだ決め手は何でしたか」と聞いてみる。
スタッフに「私がいるときといないときで、何が違いますか」と聞いてみる。
すると、自分では思ってもみなかった答えが返ってきます。
「あの人、忙しいときほど声のトーンが変わらないんですよ」
そんなことを言われて、初めて自分の技術に気づく。よくある光景です。
言語化は、才能ではありません。手順です。
「数字が苦手」の正体
2つ目の理由、数字への苦手意識。
これも、少しだけ整理が必要だと思っています。
コンサルタントになるには、財務諸表を読み込んで、あらゆる指標を扱えなければいけない。そう思っていませんか。
そんなことはありません。
経営判断に使う数字は、実はそう多くないんです。
いくら残したいのか。そのためにいくら売る必要があるのか。あと何人来てもらえばいいのか。
判断に使う数字だけ分かれば、話はできます。
全部を理解しようとするから、途中で嫌になる。
必要なのは全部ではなく、判断に使う分だけです。
現場を回してきた人は、実はこの感覚をすでに持っています。
「今日はあと何組入れば大丈夫か」を体で分かっている。
それを数字の言葉に置き換えるだけです。ゼロから学ぶわけではありません。
「再現性がない」の正体
3つ目が、いちばん根が深いところです。
「自分の店ではうまくいったけど、他でも通用するかは分からない」
これを言う方は、とても誠実だと思います。適当なことを言わない人です。
ただ、ここには順番の取り違えがあります。
再現性は、誰にでも効く方法を見つけることではありません。この人にはこう効く、という範囲を決めることです。
「どんな飲食店でも売上が上がります」を証明しようとすると、一生証明できません。当たり前です。業態も立地も規模も違うんですから。
でも「客単価3,000円前後で、家族経営で、店主が現場に立っている店」と決めれば、話は変わります。その範囲でなら、自分の経験は再現できる。
範囲を決めていないから、証明できない。
証明できないから、自信が持てない。
自信が持てないから、商品にできない。
そういう順番で詰まっています。
詰まっているのは、能力ではなく順番
ここまで見てきて、共通していることがあります。
商品を作るときの順番は、①だれに ②何を ③どのようにです。
ところが現場出身の方は、ほとんどが③から入ります。
自分が20年やってきたやり方がある。腕がある。だから「このやり方を教えます」から始めてしまう。
でも③から入ると、①が決まりません。①が決まらないと、②の価値も定まらない。結果、「誰に何を提供しているのか分からないもの」ができあがります。
言語化できないのも、再現性を証明できないのも、突き詰めればここです。
相手が決まっていないから、何を言葉にすればいいのか分からない。
逆に言えば、①を決めた瞬間に、他の2つは一気にほどけます。
誰に向けて話すかが決まれば、その人に必要な言葉だけを選べばいい。その人の店で再現できればいい。その人が判断に使う数字だけ分かればいい。
急に、やることが減ります。
現場経験は「不足」ではなく「選ばれる理由」
最後に、いちばんお伝えしたいことを書きます。
現場出身の方の多くが、自分の経歴を引け目として持っています。
理論を学んでいない。フレームワークを知らない。だからコンサルらしくない、と。
それで何をするかというと、コンサルらしくなろうとするんですね。用語を覚えて、資料をきれいにして、他のコンサルタントに似せていく。
これは、もったいない。
考えてみてください。現場を20年やってきた人にしか言えないことが、必ずあります。
「そのやり方、朝の仕込みの時間帯だと回りませんよ」みたいな指摘は、現場を知らない人には絶対に出てきません。
そして、お客様が本当に聞きたいのは、そういう話です。
現場経験は、コンサルタントになるために埋めるべき不足ではありません。
それ自体が、選ばれる理由です。
にもかかわらず、多くの人がそれを隠して、他の人に似せようとする。
他人と違うことを追いかけて、かえって自分の価値から離れていく。
差別化しようとして、差別化から遠ざかっているんですね。
まとめ
現場経験を商品にできない理由は、知識が足りないからではありません。
- 言語化できないのは、当たり前すぎて気づいていないから。人に聞けば出てきます
- 数字が苦手なのは、全部を理解しようとしているから。判断に使う分だけで足ります
- 再現性を証明できないのは、相手を決めていないから。範囲を決めれば証明できます
そして、この3つはすべて、①だれに を先に決めるだけで一度にほどけます。
あなたの腕は、すでにあります。足りないのは順番だけです。

