法人向けサービスの作り方や売り方を教えていると、よく聞かれる質問があります。
「これから法人を相手にするなら、インボイス登録したほうがいいですか?」
これ、迷いますよね。
今まで売上が1,000万円以下で、消費税を納めていなかった人にとっては、
「登録したら、消費税を払わないといけないんでしょ?」
という心配もあると思います。
その一方で、
「インボイス登録していないと、法人と取引できないの?」
という心配もある。
まずは、消費税の仕組みから見てみましょう。
そもそも、消費税はどうやって納めるの?
たとえば、珈琲ショップがあるとします。
話をわかりやすくするために、ここでは税率10%の取引だけで考えます。
そのお店が、お客さんにコーヒーを販売して、1年間で
本体価格 100万円
消費税 10万円
合計 110万円
を受け取ったとします。
では、このお客さんから受け取った消費税10万円をそのまま税務署に納めるのでしょうか。
そうではありません。
珈琲ショップは、コーヒーを売るためにいろいろなものを仕入れています。
コーヒー豆、牛乳、紙コップ、備品など、いろいろ必要ですからね。
仮に、それらを、こちらも1年間で
本体価格 50万円
消費税 5万円
合計 55万円
で仕入れていたとします。
お客さんから受け取った消費税が10万円。
仕入れなどで支払った消費税が5万円。
原則的な計算での差額は
(受け取った)10万円 − (支払った)5万円 = (差額の)5万円
この5万円を納めます。
このように、仕入れなどで支払った消費税を、売上で受け取った消費税から差し引くことを、
「仕入税額控除」
といいます。
インボイスは何のためにあるの?
ここでインボイスが登場します。
珈琲ショップからすれば、決算や確定申告で
「私は、このコーヒー豆を仕入れたときに、これだけ消費税を払いました」
ということを証明する必要があります。
そのために使われるのが、インボイス(適格請求書)です。
原則として、買った側が仕入税額控除をするためには、インボイスなどの保存が必要になります。
では、コーヒー豆屋さんがインボイス登録をしていなかったら?
その豆屋さんは、インボイスを発行できません。
すると、珈琲ショップは、払った消費税を証明できないので、その仕入れについて仕入税額控除ができなくなります。
つまり、インボイスは、買った側が
「この取引で支払った消費税を、自分が納める消費税から差し引けるのか」に関係するものです。
法人向けサービスに置き換えてみます
あなたが法人向けに、研修やなんらかのサービスを販売するとしましょう。
価格は、
本体価格 30万円
消費税相当額 3万円
合計 33万円
だったとします。
あなたがインボイス発行事業者なら、必要な事項を記載したインボイスを発行できます。
取引先の会社は、原則として、そのインボイスをもとに仕入税額控除ができます。
ところが、あなたがインボイス登録をしていなければ、インボイスは発行できません。
取引先からすると、
「同じ33万円を払うなら、インボイスを発行してくれる会社に頼んだほうがいい」
という判断になる可能性があります。
「インボイスがないなら値下げしてください」と言われることもある
もちろん、インボイス登録をしていないからといって、法人と取引できないわけではありません。
会社側が気にしなければ、そのまま取引できます。
ただし、
「インボイス登録していないなら、その分値下げできますか?」
と言われることはあり得ます。
あるいは会社の方針として、
「取引先はインボイス発行事業者に限る」
としているケースもあります。
ですから、法人営業をしていく事業主にとっては、
「税金をいくら払うか」だけでなく、
インボイス登録していないことで、商談や受注の機会を失う可能性がある
ことも考えておきたいところです。
補足:インボイスを発行できない事業者からの仕入れについても経過措置があります。
制度も改正されており、2026年10月以降の控除割合なども変更されています。
なので、「インボイスがない=取引先が消費税10%分をそのまま損する」と単純に考えるものでもありません。
インボイス登録するとどうなる?
ここは登録前に知っておきたいところです。
これまで消費税の免税事業者だった人がインボイス発行事業者として登録すると、原則として、
消費税の課税事業者になります。
つまり、今までのように
「売上1,000万円を超えていないから、私は消費税を納めなくていい」
とはならなくなります。
インボイス登録を続けている限り、売上が1,000万円以下でも消費税の申告・納税が必要になります。
納税するお金も必要になりますし、消費税の申告という事務も増えます。
いくら売上があれば登録しても損しないの?
「売上1000万円未満だから消費税を納めていないのに、登録したら税金が増えちゃうんですか?」
「いくら売上があれば登録しても損しないの?」
これも、よく聞かれます。
答えは、「人による」。
そんな乱暴な、と思うでしょうけれど、
「売上○万円を超えたら インボイス登録したほうが得」
という金額が一律にあるわけではありません。
なぜなら、その人・会社が
- どのくらい消費税を受け取っているのか。
- どのくらい仕入れや経費で消費税を払っているのか。(売上に対しての仕入れの割合はどのくらいか。)
- 一般課税なのか、簡易課税なのか。(コース選択のようなものです)
- 利用できる特例があるのか。
など、条件が違うからです。
そして何より、
インボイス登録していないことで、どれだけ法人取引を逃す可能性があるのか。
これによって変わるからです。
たとえば、インボイス登録したことで年間10万円の納税負担が増えたとします。
でも、「インボイス登録していること」が条件になっている30万円の研修を1件受注できたら?
どちらが、手元に残るお金は多いですか?
少なくとも、登録するかどうかを「納税額だけ」で判断するのは違いますよね。
反対に、一般消費者(個人向け)にしか販売していないなら、お客さんからインボイスを求められることも、ほぼありません。
そんな人なら、わざわざ課税事業者になってまで登録する必要性は低いかもしれませんね。
現在は負担を軽くする特例もあります
インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった人には、一定の要件を満たす場合、納税額を軽減する特例があります。
2026年8月現在は「2割特例」があり、対象者なら、
売上にかかる消費税額の2割
を納税額とすることができます。
たとえば、課税売上が税込330万円で、そのうち売上にかかる消費税額が30万円なら、
30万円 × 20% = 6万円
という計算です。
ただし、この2割特例はずっと続く制度ではありません。
国税庁によると、2026年9月30日までの日が属する課税期間までが対象です。
また、2026年度税制改正により、個人事業者については一定の要件のもと、2027年・2028年分に「3割特例」が設けられています。
法人については、この3割特例の対象ではありません。
制度は変わりますので、実際に登録を判断するときは、その時点で利用できる特例や簡易課税も含めて、税理士さんなどに確認してください。
私は、法人を相手にしていくなら登録しておけばいいと思っています
ここからは制度の説明ではなく、あくまでも私の考えです。
これから本気で法人向けサービスを作って、法人営業をしていきたい。
そんな方なら、私は、
インボイス登録しておけばいいのに
と思っています。
もちろん、登録すれば消費税の申告・納税が必要になります。
だから、
「登録したら、いくら税金が増えるんだろう」
と考えるのも必要です。
でも、法人向けビジネスをするのであれば、もう一つ計算してほしい。
登録しないことで、いくらの売上を逃す可能性があるのか。
こちらです。
せっかく提案が通ったのに、
「インボイス登録されていないんですね」
で条件が悪くなる。
値下げを求められる。
あるいは、取引先の選定条件から外れる。
私は、こちらのほうがもったいないと思っています。
特に法人向けサービスは、1件の取引金額が大きくなることがあります。
消費税を納めたくないからインボイス登録をしない。
その結果、何十万円、何百万円というビジネスの機会を逃していたら、本末転倒です。
税金を払わないことより、利益を残すこと。
法人向けにビジネスを広げていくなら、
「いくら税金が増えるか」だけではなく、
「登録することで、どんな取引ができるようになるか」
まで含めて考えてみてくださいね。
そして、「1000万円の壁」を超えちゃうことも、想定しておいてください。

